司法通訳の仕事について:ルイス(番外編)

今回は、ポルトガル語、スペイン語、日本語の司法通訳として25年の経験を持つルイスの仕事に焦点を当てます。裁判の特殊な状況で異文化間のやり取りを支える仕事について話してくれました。なお彼は司法通訳志望者への指導も行ない、写真は司法通訳志望の方々と一緒に。

名前:中野ルイス 年齢:51歳

プロフィールブラジル、サンパウロ出身。日系3世。1990年に語学留学のため来日し、その後旧南米銀行の東京駐在員事務所で勤務する。銀行勤務のかたわら日本語、ポルトガル語、スペイン語の法廷通訳として働き始め、1995年に司法通訳として独立。


 

二度と繰り返させないために

———-司法通訳として、被告人と関わる時に気をつけていることは?

ルイス:その人が犯した犯罪自体に反感を持つことは絶対にないようにしている。相手が罪を犯している前提の仕事だし、被告人が唯一言葉を自由に話せるのは僕だけ。反省して、もう二度とそういうことをしないように、何かできたらいいなと思いながら仕事をしている。

でも、僕のそんな気持ちは少しも込めずに、その人が話す通りに訳さなくてはいけない。だから少し辛い時もある。そして、なかには「次は捕まらないようにやろう」と考えている人もいるんだけどね。

名前を知られたくない通訳が多い理由

———-法廷通訳にはどんな感じの人が多い?

ルイス:他の通訳人はすごく鼻が高い。まるで自分が裁判官みたいな思い込みをしている。被告人を見下すような感じで見ている。

———-これ書いて平気? 

ルイス:いいよ、本当にそうだから。

被告人の家族が傍聴に来ている時も、他の通訳人は家族を見向きもせずに法廷から出ていく。僕にはそんなことできない。「忙しいところ来てくれてありがとう」とか一言だけでも声をかける。

通訳人は仕事の前に「良心に従って誠実に通訳します」って宣誓する。その時に名前を言いたくない通訳人が多い。理由は、その被告人から仕返しされたら嫌だから。

でも僕はこの25年間で仕返しなんて1度もない。逆に「お食事に来てください」「息子に良くしてくれてありがとう」とかばかりだよ。

———-他の通訳の人は仕事を超えて被告人と関わりたくなくて、距離を明確に示したいのかな。

ルイス:そうだと思う。そして裁判所はそういう通訳人を求める。

でも僕は被告人と関わりを持ちながら、仕事に支障がないように気をつけている。通訳人までが見下していると、被告人は言いたいことも言えなくなるから。

更生のために遠慮なく話せるよう、僕が信用できる人にならないといけない。信頼関係ができると、話すのが早すぎる時には合図すればわかってくれるし、重要な話題の時はしっかり目を見て尋ねると「重要な所だ」と理解してくれて、慎重に答えてくれる。そういう配慮がないと、通訳もしづらくなる。 

法廷通訳で一番大変なこと

———-仕事で一番大変なことは? 

ルイス:一番大変なのは、被告人の本当に言いたいことがわからない時。口で言っていることと事実が違う時が一番困るね。

———-例えばどんな状況?

ルイス:例えば、被告人が誰かをかばうために「とにかく全部自分が悪いんだ」と言っている時。どうして悪いのか聞くと、その理由がぶれる。

逆に悪いことをしていないと嘘をつく人もそうだね。相手の答えがぶれていると通訳はもっとぶれてしまうから、そういう時は困る。

———-そういう時、通訳の仕方は変わる?

ルイス:うん、すごく変わる。それまではその人の目を見て、表情を見て、それを理解しよう頑張る。

でも、あまりに本当のこと言ってない時には、僕は目をつぶり下を向いて、言葉だけに集中する。その人の表情と話していることが一致しないから、僕の方で情報を処理できなくなってしまうんだよね。だから影響を受けないように目をつぶる。

裁判の終わりに「ありがとう」

———-仕事でこれまで一番嬉しかったことは? 

ルイス:一番嬉しい気持ちになるのは、被告人が判決の言い渡しの後、「ありがとう」と言ってくれること。本当に嬉しい。

有罪の場合は手錠をかけられて刑務所に行く。一番重い判決で死刑、他にも20年以上の長い懲役。そんな時に、被告人が最後に僕の横を通って法廷を後にする時、「ありがとう」って。

たまに被告人の家族が心配して「どういう判決になるんですか」と聞いてくることもある。そんな時、僕は「神にしか分からないから祈りましょう」って答えるよ。具体的なことを言うわけにはもちろんいかないから、神のせいにしとく(笑)。

するとポルトガル語もスペイン語も大体みんなカトリックだから、「そうだね」「そうしましょう」と納得してくれるんだ。

———-文化を知っているからできる答えだね。家族が求めているのも「大丈夫」と言ってもらうことなのかもね。

ルイス:そうそう。どんな罪でも神は許すけど、私の口では言えないから「神に頼もうね」「祈りましょう」って言うと、ノーという人はいないからね。