ボムギルは韓国、ソウルからから東京に移住。自然な日本語を話し、インタビューはすべて日本語で行いました。意外にも、彼が日本語を学び始めたのは韓国での兵役中だったと言います。
プロフィール
名前:パク・ボムギル 年齢:30歳
韓国、ソウル出身。韓国での兵役を終えた後、21歳の時にワーキングホリデービザで日本に約1年滞在。帰国後は大学に入学、中退したのち日本語通訳などの仕事に就く。26歳の時に再来日。現在は大学に通いながらメッセンジャーとして働く。
兵役中に独学で始めた日本語
—————日本語を勉強し始めたのはいつ?
ボムギル:日本に来る前まで2年間軍隊にいて、その時に16か月勉強していたよ。
—————軍隊でそういうプログラムがある?
ボムギル:ないない、就寝時間を使って独学した。軍隊では就寝時間が6時間あって、昼 3時間、夜3時間に分かれている。昼夜それぞれ寝る前に1時間ずつ勉強した。
—————なぜ日本語を勉強しようと思った?
ボムギル:いや、何か理由あって勉強していたらいいんだけど、何も考えてなかった。当時、北朝鮮に面してる拠点で通信兵をやっていて、無線機を背負って毎日駆けずり回っていたのね。
通信兵の役割としては、北朝鮮側で怪しい動きがあったら本部や捜索隊に連絡するんだけど、あそこがもう本当にやばくて。4000段の階段がある場所を、毎日20 km 往復。これを毎日やっていた。
4000段を一歩一歩登るのがすごく厳しくて、気を紛らわすために何か覚えようと思った。何か漢字がある言語、中国語か日本語かな、でも漢字だけ覚えるのもなと思って日本語をやっていた。
実際、覚えたことをひたすら頭の中で繰り返していると、階段を登っていても体があまりしんどくなかった。除隊する時には日本語検定1級が取れていたよ。
—————軍隊では周りの人も、同じ理由で何か覚えたりしている?
ボムギル:やってない。みんな寝るか、休むか。
—————そうなんだ、予想外の答えだった。
ボムギル:そう、だから日本語を選んだことにちゃんとした理由はない。
「知っていることだけ話せばいい」
—————会話はどうやって勉強した?
ボムギル:当時、会話は全然できなかったんだよね。ワーホリで成田に着いた時に気付いたの。俺喋れないんだって。びっくりしたよ。読めるし、周りで何言ってるかも分かったんだけど、いざ自分で喋ろうと思ったらできなくて。そういえば俺喋ったことねえやって。
—————ワーホリでは1年くらい日本に滞在したんだよね。その時に会話はどれくらい上達した?
ボムギル:今と変わらないくらい話すようになったかも。住んでたら自然に。

—————日本語学校には行っていない?
ボムギル:うん、行っていない。そうだな、漫才とドラマはよく観ていたよ。漫才は聞きながらずっとシャドーイングしてて、すごく効くと思った。他の言語を勉強する時に、ある程度文法的な知識を勉強してからシャドーイングをすれば単語も覚えやすいし。
—————漫才とドラマでこんなに話せるのか。
ボムギル:それでも、やっぱり最初はあまり喋れなかったよ。もどかしくてイライラしたし、何で俺こんなしゃべれないんだろうって思った。
その時にモンゴル人の友達と話してさ。そいつは韓国に住んでて、韓国語ペラペラに喋れるの。で、「何でそんなに韓国語喋れるの」と聞いたら「頭の中で翻訳して喋らずに、知ってる言葉だけを話せばいい」と言われたんだよね。
その時からすごい楽になった。知っていることだけを話していても、話すなかでわかる範囲は自然と広がるしね。
来日前に不安だったこと
—————日本に来る前に期待や不安はあった?
ボムギル:期待は何もなかったけど、不安については日本と韓国の歴史的な関係があるからね。今は違うけど、俺が子供の頃は「日本人はああだこうだ」っていうことを教えられてたから「本当にそうなのかな」という不安はあったよ。
あと日本で韓国に対するデモとかあるじゃん。報道は韓国でもされるから、そういうの聞くとやっぱ怖いなと思っていた。
でも一般の人って別にそう思ってないじゃん。韓国にも反日とかあるけど、韓国も一緒。一般の人は何も思ってないのに、なんであんなことするのって思う。
—————韓国では軍隊を終えた後にワーホリに行く人は多い?
ボムギル:どうだろうね。多くの人は大学3年ぐらいで軍隊に行くから、除隊後は学校に戻る人が多いんじゃないかな。
イスラエルの人は軍隊が終わった後に海外行く人多いよね。軍隊が辛すぎて、その後どこかで発散するみたいな話は聞いたことある。
韓国はちがうな。ある年齢までに何かをやっておかないといけないとか、就職とかいろいろ厳しいから余裕がないんだよね 。
—————そういうのは気にならなかった?
ボムギル:うん、俺は気にしない。昔から誰かに言われたままのことをやりたくない性分があって。「普通」と言われることを俺がやってどうすんだって。それをするやつは俺以外にもいっぱいいるじゃん。
だから、こんなやつが一人ぐらい居てもいいと思っているんだけど、結局そういうやつもいっぱいいるのもわかってる。
日本に住むなかで変わった部分もあると思う。韓国にいた時は、自分では気にしないと言いながらも、どこかで韓国の若者として求められる姿を気にしてた。
例えば、TOEICで何点取って、大学卒業して、資格を取って、というのを、否定しながらもどこかで気にしている自分がいた。
でも日本ではフリーターも多いし、正社員じゃなくても何らかの形で自分の人生を生きていく人たちがいっぱいいるじゃん。それを見てすごくいいなと思った。「とらわれなくてもいい」という気持ちが完結されたというか。
ワーホリでの自分の変化
—————ワーキングホリデーで日本にいた時はどんなことをしていた?
ボムギル:最初は仕事が決まっていなかったんだけど、日本に来て少ししてからは友達の会社を手伝っていたけど経営がうまくいかなくなって、ビジネス自体がなくなった。その仕事が1年弱で終わって、ワーホリビザが切れて、その後すぐ韓国に帰ったよ。
—————その時、また日本に戻ってくると思っていた?
ボムギル:うん。日本に1年くらい住んでみて、その間にすごい自分の感覚がすごく変わって。
どう変わったかはっきりとは言えないけど、韓国に帰った時に、明らかに向こうが悪い時でも謝らない状況にイライラして。例えば小さなことだけど、ぶつかった時とかね。行く前はなんとも思っていなかったんだけど。
—————日本に戻ってきたきっかけは?
ボムギル:きっかけは前の彼女。大阪の子で、俺が韓国にいた時から付き合い始めた。彼女が韓国で旅行してる時に出会った。
何も考えないで行動してしまうから、その時も軽い感じで。彼女は大阪に住んでいたから、真ん中とって東京にするか!みたいなね。実は地理的には真ん中ではないけどね。大阪は俺が嫌だったから。韓国とあんまり変わらないんだよね。

—————東京ではどんな生活?
ボムギル:メッセンジャーとしてずっと働いてて、去年から大学に通い始めた。 今は、平日は毎日午前中から夕方は学校で、午後5時から11時まで仕事。しんどいよ。
—————メッセンジャーの会社を選んだ理由は?
ボムギル:バイクもチャリも好きだし、メンテナンスとかバッチリだから俺。自分で言うなってね。
今働いてる会社は前から知っていたんだ。ワーホリ時代、隣にその会社のメッセンジャーが住んでて「いいチャリ乗っててメッセンジャーはいいな」って思ってて。いつかまた日本に戻ったら、ここで働こうと思ってたの。
そして日本に戻ってきた時に、その会社のメッセンジャーがたまたま前を通ったから呼び止めて「働きたい」って伝えて、面接を受けてから働き始めたよ。
俺なんで日本にいるんだろうって
—————日本に住んでみて良かったことはある?
ボムギル:良かったこと…。今更聞かれるとわからないな。人が親切でそれはすごく良かったこと。でも物事には良いことも悪いこともあるから、親切なことが悪いこともあるだろうとも思うし。
逆に悪いとこが見えても、その裏には良いことがあるだろうと思うから。だからあまり気にしない。

—————故郷の一番何が恋しい?
ボムギル:友達との飲み。とにかくみんなすごい量を飲むから、それが楽しい。同じだけバカになる。周りがひどいことをやるから、俺のやったバカなことも消せるって言うか。俺の周りでは、韓国では酔っ払って普通。男女問わず、平日でも。
韓国では当日に決めて飲みに行くことが多いよ。あまり先の予定は決めない。日本の友達を飲みに誘うと3週間後とかになる。
基本その日の気分で「ちょっと飲みたいな」って思ったら誘う。俺がそう思ってたら、みんな大体そう思ってるからね。
—————また移住したいと思う?
ボムギル:思う。
どこでもいいよ、ほんと。旅行とかで良いなと思ったら住んじゃうと思う。あんまり先のこと考えてないから。だから時々思うんだよね。俺なんで日本にいるんだろうって、今でも思う。ある国にすごくこだわりがあるわけでもないし、どこに住んでても別にいいと思っちゃう。
—————「良い」と思う基準って何?
ボムギル:ないかな。俺はないと思ってるんだけど、何かあるかもしんない。でもそれが何かっていうのは俺にはまだわかんないな。

